11月の朝雲ニュース

11/26日付

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技術が消える! 
窮地に立つ防衛産業<4>
火薬も、ロケットも 
誰が継ぐ熟練の技 
減り続ける技能工 安全対策にも悪影響


 国内有数のロケット製造技術を誇るIHIエアロスペースだが、技術者の維持は困難だ(同社富岡事業所で)

 群馬県富岡市のIHIエアロスペース富岡事業所の正門前には国産M―Vロケットの3分の1スケール“モニュメント”がそびえている。「最先端技術の結晶といえるロケット関連技術で、日本の国防に貢献しています」と同社。
  ロケット飛翔体の開発・製造メーカーとして日本有数の技術力を誇る同社は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH―UAロケットの固体ロケットブースターを製造しているほか、小型衛星を搭載できる次期固体ロケットも開発中だ。
  宇宙関連企業のイメージが強い同社だが、防衛需要の売り上げは約3分の2を占めており、長年にわたりわが国の国防に貢献してきた。自衛隊の装備品では多連装ロケットシステム自走発射機(MLRS)や92式地雷原処理車の製造をはじめ、ペトリオットPAC3などBMD関連の製造や開発試作にも携わってきた。
  しかし、国内で最先端のロケット技術を持つ同社にも、防衛費削減の影響が及んでいる。平成6年度に納入が始まったMLRSは、同18年度に最終号車を納めてすべて生産を終えた。以来、プライムメーカーとして新規の製造開発はなくなった。
  「修理や改修だけでは技術者や技能工は維持できない。この稼働率を見てください」と製造責任者。広い工場内を見渡すと、防衛需要などで使用してきた多数の工作機器が整然と並ぶ中、わずか数人の技能工がいるだけだ。
  防需と宇宙関連の官需が売り上げのほぼ100%を占める同社にとって、予算の削減は約900人いる技術者や技能工などの雇用維持だけでなく、半世紀にわたって培ってきたロケット技術の散逸にもつながってくる。
  下請け企業の技術基盤の維持も必要不可欠だが、ここ数年、同社に製品を納めている機械加工や原材料メーカーの撤退も相次いでいる。「売り上げが少なく、もう生産は無理」と受注辞退した企業の部品と同じ性能を持つものを慌てて探し出したケースもあった。
  30年にわたりロケットや防衛装備品の販売を手掛けてきた細川幸男営業部長は「ロケット開発に誇りを持ち、社員一丸となって国家のために尽くしてきた。日本が最先端のロケット技術や宇宙関連技術を持っていることは、他国への抑止力にもなっている。防衛産業の政策立案にこのような視点も考慮に入れてほしい」と語る。
  同じくH―UAロケットに携わり、弾薬に使用する火薬類などを製造している中国化薬(本社・広島県呉市)も防衛費減少の荒波にほんろうされている。
  同社の防需の売り上げは平成2年度に約94億円あったが、平成20年度には約70億円に減少。「弾薬生産を主体とする防衛関連製品が売り上げの約75%を占めており、調達の減少は会社の死活問題」と担当者は苦境を打ち明ける。
  昭和22年に設立された同社は、日本で唯一、軍用に使用されるTNT火薬を製造しているほか、ニトロ化合物を利用した心筋梗塞の治療薬も手掛け、防衛製品だけでなく民間医療の分野でも貢献している。装備品関連では、各種火砲の砲弾やロケット弾、爆弾や魚雷、ミサイルなどの爆破薬として使われ、日本の安全保障にとって同社の果たす役割は大きい。
  受注の減少は、人員構成にも深刻な影響を及ぼしている。平成2年に768人いた従業員は、定年退職による自然減を中心に300人近く減らした。同社幹部は「火薬類を取り扱う業務上、安全対策に万全を期すため、これ以上人員整理には手をつけられない。仕事量の減少による採算性の悪化は、安全対策のための設備投資にも悪影響を与える」と危機感を募らせる。
  こうした厳しい経営環境にさらに追い討ちをかけるのが、熟練工の大量退職問題だ。例えば、電気雷管のプラグ組み立てでは、わずか1・5ミリのスペースに筆先に付けた数ミリグラムの火薬を置く熟練の技が求められ、砲弾に充填した火薬のX線検査では、わずかな空隙を見つけるプロの目が不可欠だ。安全対策上、こうした作業は未熟な新人に任せられない。
  ここ数年でこのような特殊技術を持つ56〜60歳の従業員約80人が退職を迎えるが、受注が減少する中で新卒者を大量に採用するのは難しく、「若い年代層が極端に少なくなり、熟練工から若手への技術の継承ができなくなる」と人事担当者は懸念する。
  受注減が生産基盤を揺るがし、安全対策にも悪影響を及ぼしかねないことについて、同社東京支店長の平本勝彦常務は「このままの減少傾向が続けば、当社への依存度が高く、特殊な製品を納めている下請け企業が耐えられない。しかし、危険を伴い、利潤を期待できない仕事だが、誰かが担当しなければならない」と、産業基盤への政策的な配慮を求めている。(続く)