「ちはや」(潜水艦救難艦)の潜水員
海中作業訓練に成功 豊後水道
世界2位の快記録
小倉2曹ら、飽和潜水で
海自潜水艦救難艦「ちはや」(艦長・土肥弘実1佐)の潜水員が5月21日、水深450メートルの海中作業訓練に成功した。海底と同じ気圧の環境を維持する「飽和潜水」の日本最深記録で、フランスの水深534メートルに次ぐ世界第2位の快挙だ。
水深450メートルの豊後水道海底で作業を行う「ちはや」潜水員(5月21日)
25日ぶりに減圧室から出た潜水員を激励する赤星海幕長(6月10日)
加圧は5日間 減圧は20日間
飽和潜水の訓練は、5月17日から6月10日まで「ちはや」で実施された。今井主一朗1曹以下、下重輝貴、小倉哲也、堀利幸、兼定秀宗各2曹、長藤大介3曹の潜水員6人はヘリウムガスを充填した艦上減圧室(DDC)で、5日間かけて実験海域の豊後水道の海底450メートルと同じ46気圧まで徐々に気圧を高め、体を慣れさせた。
6人は2チームに分かれ、うち1チームの3人が「ちはや」の水中昇降室(PTC)に移り、水深450メートルの海底に降下。5月21日、小倉、堀両2曹がPTCから海中に出て、約1時間にわたり作業訓練を行った。
海中では、深くなるにつれて身体に高圧がかかり、身体に窒素などの不活性ガスが溶け込む。このため浮上速度が速すぎたり、体内に溶け込んだガス量が多い場合、体外への排出が間に合わず、体内で気泡化し、関節・筋肉痛や意識障害などの神経症状を伴う減圧症を生じる。重症の場合、生命に危険を及ぼす可能性もあるため、浮上する際には時間をかけて減圧しなければらない。
6人は「ちはや」のDDCで約20日間かけて徐々に減圧。6月10日、呉に帰港した「ちはや」で、25日ぶりにDDCから出た6人は赤星慶治海幕長ら海自幹部の出迎えを受けた。
この後、「ちはや」で行われた表彰式で海幕長は「実海面での450メートル飽和潜水成功は、賞賛に値する成果。6人の気力と体力、チームワークと同時に、サポートも見事であった」と海中作業訓練の成功をたたえ、「作業を成功に導いた艦長以下、乗員の労と、潜水艦隊司令官以下、潜水艦全員の支援、今回チャレンジした6人の家族の理解と協力があったことを今一度思い起こしたい」と述べ、「ちはや」艦長に2級賞状を授与した。
海自の飽和潜水の記録は、1987年10月に潜水艦救難母艦「ちよだ」の潜水員が打ち立てた311メートルが最深だったが、シミュレーター内ではすでに450メートルの飽和潜水を達成している潜水医学実験隊のデータや、「ちはや」の新しい減圧室、機材などにより、実海面での450メートルの飽和潜水が可能となった。今回の記録は、フランスが水素ガスなどによる加圧・減圧で官民共同で達成した534メートルに次ぎ、飽和潜水としては世界第2位の記録だ。
今回の成功について海自衛生企画室では「潜水艦事故などが発生した場合の救助作業に期待が持てる。どんなに技術が進歩しても、やはり最後は人の手で救助することは欠かせない」と話している。
飽和潜水
潜水病を防ぐための潜水方法。潜水で加圧されると、空気中に含まれている窒素などの不活性ガスが呼吸を通じて体内に溶け込むが、ある一定の深度にそのまま滞在し続けた場合、それ以上は不活性ガスが溶け込まず、飽和状態になる。ヘリウムの混合ガスなどにより人為的に加圧・減圧してこの状態を利用するのが飽和潜水で、どんなに長時間海中に滞在しても体内の不活性ガスは増えず長時間の潜水作業が可能になる。作業後は長い時間をかけて減圧することで体内のガスを除く。潜水員が特殊な環境に長時間置かれるので、その管理には外部の大掛かりな支援が必要。