防衛関係資料


 

防衛力の実効性向上のための構造改革推進に向けたロードマップ
―動的防衛力の構築に向けた全省的取り組み― E
防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会(23年8月)

 

 4 PBL(Performance Based Logistics)

 (1)現状認識
 @米英におけるPBLの導入状況
 PBLは米英において2000年頃から取り組まれている装備品等の維持・整備業務を民間委託する手法の一つであり、維持・整備業務の作業量に応じて対価を支払うのではなく、可動率や安全性といった装備品等のパフォーマンスの達成に対して対価を支払う契約方式である。その導入により可動率や信頼性の向上及びコストの抑制など、一定の効果が期待できる。
 米英では、主に固定翼及び回転翼航空機を中心にPBLの導入が進められており、米国においては70%弱(GAO PBL Report Sep 2008)、英国では55%弱(UK MoDPressRe―leasesOct2010)を占めている。
 APBL導入の必要性
 前述したとおり、防衛予算は、我が国の厳しい財政事情を反映し抑制傾向が続く中、装備品等の維持・整備に係る経費については増加傾向を示し、平成17年度以降は、主要装備品を取得する経費を上回る状況になっている。
 PBLの導入については、新中期防の「V 自衛隊の能力等に関する主要事業」において「維持整備に係る成果の達成に応じて対価を支払う新たな契約方式(PBL)の導入を図る。」と記述されているところ。今後、限られた資源でより実効性の高い防衛力の整備を行うことは、益々重要な課題となっており、維持・整備分野については、現在の手法にとらわれず、装備品等の質の維持・向上を図りつつ、業務の効率化及び経費の抑制を行うため、欧米諸国で実施されているPBLをはじめとする新しい手法の導入を図るなど、新たな取組を進める必要があることは明らかであり、特にPBLについては、コストの抑制や業務の効率化など、一定の効果を期待するものである。

 (2)防衛省PBL導入ガイドラインの策定について
 @防衛省PBL導入ガイドラインの必要性
 PBLは、我が国において従来にない維持整備に係る手法であることから、防衛省及び民間企業においても共通した認識を持つ必要があり、そのためのガイドラインを策定することが必要である。防衛省PBL導入ガイドラインは、PBLの手法の定義や検討のアプローチなどについて整理し、今後、防衛省・自衛隊においてPBL導入過程の可視化、検討を行うに当たり解決すべき論点等の整理など、必要な事項を示すものである。
 APBLの定義
 防衛省においてPBLの明確な定義がないことから、導入に向けた検討に際し、どのようなものをPBLとするのかについて、明確にする必要がある。よって、防衛省・自衛隊におけるPBLを「装備品等の補給、維持・整備に係る業務について、部品等の売買契約または、製造請負契約若しくは修理等の役務請負契約の都度、必要な部品の個数や役務の工数に応じた契約を結ぶのではなく、役務の提供等により得られる成果(可動率の維持・向上、修理時間の短縮、安定在庫の確保等のパフォーマンスの達成)に主眼を置いて包括的な業務範囲に対し長期的な契約を結ぶもの。」と定義する。
 具体的には、官民間の合意により業務評価指標(Key Performance Indicator:KPI)や目標値を設定し、契約相手方にその目標を達成するために用いる手法において裁量を与えるとともに、それらの目標を達成した場合には、報奨金や契約延長等のインセンティブを与え、これにより、契約相手方の自主的な改善・効率化活動を促し、民間で実績のあるサプライチェーンマネージメント等の手法の適用を進め、品質を維持・向上させつつ長期的なコスト低減を図ることを目指すものである。
 BPBL導入レベル
 PBLを適用する場合、対象とする装備品等の任務遂行内容、現在の民間への業務委託範囲、導入する上での期待効果及び効率性等を勘案した上で適用範囲を選択すべきであり、レベル1から適用する装備品等もあれば、レベル3から適用する装備品等もある。また、同じレベル1から適用する際も、全ての構成品に対して適用する場合と、一部の構成品から適用する場合もある。(編集局注=レベル1は一部または全部の構成品のリードタイム保証、レベル2は同じく在庫保証、レベル3は本体または主要構成品の可用性保証、レベル4は本体の任務保証)
 CPBL導入に向けたアプローチ
 ア PBL適用装備品等の選定
 PBLの導入に当たっては、官民において合意すべき事項が多岐にわたり検討に要する期間も長期になることから、検討の初期段階において適用可能性を概略判断する必要がある。
 海外事例をもとに適用可能性を概略判断する主な指針は次のとおり。
 (ア)装備品等自体の特徴
 構造が複雑かつ技術的に高度で、部品補給及び整備作業の頻度が高いこと
 (イ)装備品等保有の状況
 装備品等の保有数量が多く、装備品等の退役までの期間が十分長いこと
 (ウ)補給・整備に関する課題
 装備品等の補給・整備に係る予算規模が大きいこと
 (エ)導入容易度
 補給・整備業務に関する情報が整備されていること

 (3)今後の方向性
 @PBLパイロット・モデルの検討
 新中期防において、「新たな契約方式(PBL)の導入を図る」こととされており、陸上自衛隊特別輸送ヘリコプターEC―225LP(以下「EC―225」という。)について、平成24年度からのPBLパイロット・モデルの実施に向けて、検討を実施している。
 ア 趣旨
 海外で製造された完成輸入機に対する部品供給、修理(機体・部品)等のリードタイム保証や在庫保証について、その効果及び実効性を検証する。
 イ 期待される効果
 (ア)維持・整備業務に係る管理業務の削減
 (イ)5年分一括契約による契約事務の軽減
 (ウ)企業の一元管理による包括的な単価契約により維持経費低減
 (エ)構成品取得及び修理の期間短縮により、部品待ちによる整備作業中断期間を短縮し、航空機の可動率の向上を期待
 (オ)単価契約により部品の品質向上や整備要領の改善等の技術改善の促進が図られ、航空機の信頼性の向上を期待
 ウ 実施時期
 平成24年度から平成28年度(5年国債)
 Aパイロット・モデルの実施に関する具体的な課題
 ア 単価契約、パフォーマンスとコストの妥当性等の契約に係る事項、PBL業務の管理等の主要課題について検討を深化する。
 イ PBL契約及び業務等に係る制度について、見直しが必要な事項は、平成23年度中に見直す方向で、引き続き検討。この際、契約制度研究会との連携を図る。
 ウ PBL実施に向けて企業を入れた形で事業内容の検討・調整ができるような検討体制を確立することが必要である。
 エ 平成24年度概算要求に向けた作業を実施する。
 BPBLの本格的導入に向けた課題
 PBLは、役務の提供等により得られる成果に主眼を置き、官民共同で業務の効率化等を目指し、長期的な契約を結ぶものであり、従来の方式とは大幅に異なる。今後、PBLの導入に係る検討の体制や契約の方法をはじめ、以下に示す事項を中心に、更に検討を深化させる。
 ア 予定価格算定方法の見直し
 予定価格は、市場価格方式又は原価計算方式により算定されている。PBLは将来に向けた維持・整備経費の低減を狙うものであり、妥当なコスト低減幅を適切な方法で決定し予定価格を算定するためのルールを設定する必要がある。
 イ インセンティブを支払うルールの設定
 PBLは成果の達成に対して対価を支払う方式であるため、目標の達成状況に応じてインセンティブを支払うルールを設定しなければならない。
 また、PBL契約においては企業努力が促されるインセンティブ制度を設計する必要があり、コスト削減がなされた場合において超過利益を返納させるのではなく、努力した企業がインセンティブとして受け取ることができるルールの設定も必要である。
 ウ ペナルティ条件設定方法の決定
 PBL契約においては、成果未達成に対してペナルティを付与する方式であるため、官が受けるサービスの損害を勘案したペナルティを設定する必要がある。

 ・今後のロードマップ
 新中期防間においては、まず、海外で製造された完成輸入機に対するリードタイム保証や在庫保証を中心としたPBLをパイロット・モデルとして実施し、その効果及び実効性を検証するとともに、国内企業におけるPBLの導入体制の強化を図る。
 さらに、完成輸入機に限らず、各自衛隊のそれぞれの特性に応じた対象装備品等を選定し、PBLの実施について官民間で合意ができたものから実施する。
 なお、インセンティブを支払うルールの設定をはじめとする様々な課題等についてはPBLの導入の検討を進める中で、合わせて検討を行うと同時に、得られた知識等についてはガイドラインの見直しを行うなど、その充実を図る。

 X 衛生機能の強化

 新大綱において、防衛力の役割として実効的な抑止及び対処、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善が掲げられ、これに必要な自衛隊の態勢・体制が示された。また、このために人的資源の効果的な活用の必要性が示され、その中で「隊員の壮健性維持に資する衛生基盤等を整備する」こととされた。
 これを受け、新中期防の体制整備に当たっての重視事項として「衛生機能の強化」が盛り込まれ、自衛隊病院等の拠点化・高機能化及び質の高い医療サービスの提供、統合後送体制、衛生資器材等の整備、海外派遣部隊等に対する医療支援機能の強化、情報通信技術の活用、医官教育の強化、看護師養成課程の4年制化、医療資格保有隊員への教育等が示された。
 これらを踏まえ、「衛生機能の強化」に係る施策を具体化するため、衛生機能の強化に関する検討委員会を設置し、その下に、「衛生基盤部会」と「人材育成・国際協力活動部会」の二つの部会を設けた。
 本委員会は、「医官(医師である幹部自衛官)及び看護官(陸上自衛隊の看護師である幹部自衛官及び4年制化した看護師養成課程を卒業した海上及び航空自衛隊の看護師である幹部自衛官)等の育成に関する検討委員会」(平成21年4月、看護4年制化検討部門、医官教育検討部門及び防衛医科大学校(以下「防医大」という。)病院活性化検討部門の3個の専門部会からなる委員会を設置)及び「自衛隊病院等在り方検討委員会」(平成20年11月設置、平成21年8月報告書取りまとめ)を発展的に統合したものである。
 本委員会では、前身の委員会で検討中であった喫緊の課題である「医官教育の強化(早期離職防止)」及び「防医大・防医大病院の強化」について検討を継続し、具体策を取りまとめるとともに、自衛隊病院等在り方検討のフォローアップを行うことを優先することとし、防衛省・自衛隊としての衛生機能の強化についての包括的な検討は、今後、本委員会で引き続き行っていくこととした。
 「衛生基盤部会」では、「自衛隊病院等の在り方検討委員会」報告書のフォローアップとして「自衛隊病院の拠点化・高機能化」に関する新大綱・新中期防を受けた新たな検討事項、衛生機能発揮の中核的存在である医官の教育を担任する重要な役割を持つ「防医大・防医大病院の機能強化」、医療の質の向上を図り、隊員等がより安全かつ適切な医療を受けるための「情報通信技術の基盤整備」等について検討を実施してきた。
 「人材育成・国際協力活動部会」では、東日本大震災における放射線専門医による的確な原子力災害への対応等、益々多様化する自衛隊の役割に対応するとともに、日進月歩で進化する医療技術を確実に身に付け、質の高い医療を提供し得るための「医官教育の強化」及び国際平和協力活動をより積極的に実施し、グローバルな安全保障環境の改善に寄与するための「国際協力活動における医療機能の拡充」等を検討するとともに、「看護師養成課程の4年制化」について、具体化に関する実務の進捗状況を確認してきたところである。
 なお、本委員会における検討成果の施策化に当たっては、構造改革推進委員会における他の検討との整合を図るとともに、その都度見直し、フィードバックを加えることとする。

 1 衛生基盤

 衛生基盤の分野では主に「自衛隊病院の拠点化・高機能化」及び「防医大・防医大病院の機能強化」の2項目についての検討を行った。

 (1)自衛隊病院の拠点化・高機能化
 @現状認識・課題
 自衛隊病院は各種事態対処時に隊員の後送病院としての役割を果たす。また、平素は、隊員及び家族の診療を行うとともに、特殊機能を含めた医療従事者の技量の維持・向上及び養成のための教育機関としての役割も果たすことが求められている。しかしながら、各自衛隊病院とも病床利用率、診療患者数ともに低く、医官をはじめとした医療技術者の十分な訓練の場となっていない。また、各種事態対処時に求められる戦傷病治療等の症例は一部の交通外傷等に限定されるため、自衛隊の行動時に必要な治療に係る適切な訓練の場となっていない。
 そのため、「自衛隊病院等在り方検討委員会」における検討成果を踏まえて、計画的に病院を整備しているところである。ただし、新大綱・新中期防の策定を受け、南西事態対処時の傷病者の治療・後送体制について、統合による機能の強化・部隊等の在り方の検討等との整合を図りつつ、引き続き検討を深化させるとともに、自衛隊病院の拠点化・高機能化に当たっては、防医大・防医大病院の強化等の検討についても留意する必要がある。
 A今後の方向性
 ア 全般
 「自衛隊病院等在り方検討委員会」報告書に基づき、中核となる病院及び国際活動教育、潜水医学、航空医学等の特殊な機能を有する機能病院を着実に整備し、自衛隊病院の拠点化・高機能化を推進する。
 それにより、医官、看護官、その他の医療資格保有隊員(看護師、准看護師、救急救命士等)等の十分な訓練の場ともなり得るよう部内研修・診療環境の改善を図る。
 イ 中長期的な検討事項
 統合による機能の強化・部隊等の在り方の中で検討中の南西事態対処時の傷病者の治療・後送体制の検討結果を受けて、引き続き検討を深化させる。
 次項に述べる防医大・防医大病院の強化等の検討の深化に応じて、自衛隊病院の拠点化・高機能化の具体的な方向性等について引き続き検討を実施する。
 自衛隊病院が医官、看護官、その他の医療資格保有隊員(看護師、准看護師、救急救命士等)等の訓練の場ともなり得るよう、病床利用率等の向上、診療患者の取込について検討するとともに、救急医学分野、防衛医学分野等の特有の診療科等を強化して、自衛隊病院の特色を活かした患者の獲得を図る等の施策についても検討が必要である。

 (2)防医大・防医大病院の機能強化
 @現状認識・課題
 ア 現状認識
 (ア)防医大・防医大病院の役割
 防医大は、防衛省・自衛隊における衛生機能発揮の中核的存在である医官を育成するための唯一の機関であり、その主たる任務は防衛省設置法に規定されているとおり、医官育成のための教育訓練及びこれに係る研究である。
 防医大は、医師国家資格を取得するための基礎的医学、幹部自衛官としての精神及び科学的思考能力と医師としての高い倫理観を教育する卒前教育と医師としての基礎的識能を修得させる初任実務研修に始まり、防衛省・自衛隊の任務達成に必要な国内外における衛生支援、健康管理支援等の各種の衛生活動を遂行するために必要な専門研修、高度専門研修、医学研究科等における卒後教育・研修を担っている。
 また、防医大は、平成26年度以降、医官に加え、養成が4年制化される看護官(師)の教育も担任することとなり、益々その役割が重要となる。
 さらに、防衛医学等に関する研究及び防衛省・自衛隊に対する専門的な支援等を行うとともに、今後更に医療資格保有隊員に対する臨床研修等を担うことが期待される。
 (イ)教育態勢・体制
 これらの医官教育・研究を実施するための主要な組織として、防医大に学生部、医学教育部、病院等が設置されている。また、学生部等に関する事項について学校長を補佐するため、自衛官をもって充てる幹事が配置されている。
 学生部は、主に卒前教育における訓育及び訓練課目の教育を担任し、学生に対する自衛官教育を実施する。このため、卒業生を含む自衛官が訓練教官等として配置されている。
 医学教育部は、主に卒前教育及び卒後教育における医学教育を担任する。このため、医学科及び医学研究科を置き、医学科には27コの専門講座(基礎及び臨床)を、医学研究科には2コの医学群を保持している。このうち基礎講座の一つである防衛医学講座に自衛官教官が配置されている。また、現職医官による兼務講師や部内外の有識者等による招聘講義等を実施し、教育内容の充実を図っている。
 防医大病院は、医学教育のうち臨床教育の場としての役割を有しており、臨床研修病院として指定され、専門的医療を研修する場として相応しい高度な医療を実践する場として位置づけられている。初任実務研修、専門研修においては、それぞれの研修に必要な症例数を確保する必要があることから、必要な手術室等の各種施設が設置されているとともに、診療を実施するための各種医療資格保持者が配置されている。
 幹事は主に学生部が担任する訓育及び訓練課目の教育について、幹部自衛官を育成する観点から学生部の業務を指導するとともに、校務全般にわたり、自衛隊のニーズを反映し得るよう学校長を補佐している。
 イ 課題
 防医大は、卒前教育として自衛官教育及び医学教育を実施するとともに、卒後教育として、防衛省・自衛隊の任務の遂行に必要な医学教育・研修を実施しなければならない。すなわち、医官は、一般的な医師としての資質及び識能の向上に加え、今般の東日本大震災及び近年の国際平和協力活動等の経験を踏まえ、多様な防衛省・自衛隊の任務を担い得るよう、災害、救急・外科、感染症医療及び総合臨床能力の維持・向上が求められる。このため、教育に当たる職員には、上記の能力、実経験等を有し、かつ、高い医療技術を保有する医官又は医官としての勤務経験のある者が一定数配置されていることが必要である。
 しかしながら、現在、職員(教官)のうち防医大卒業者の数は多くなく、防衛省・自衛隊の任務に精通した教官、指導者は少ない。これは、防医大の指導態勢を含め、平素からの防衛省・自衛隊の任務に基づく傷病の治療等、特性を反映させた実践的な医学教育と自衛隊医官としての勤務経験を持つ指導者による感化・善導を伴った自衛官教育の両立を考えた場合、必ずしも十分な態勢とはいえない。このため、医官教育を充実させるとともに、職員に防医大卒業者の配置を増加させること等により、防衛省・自衛隊の任務に即したより実践的な教育・研修とすることが必要である。
 防医大病院は臨床研修病院として、初任実務研修及び専門研修を実施している。この際、初任実務研修に必要な症例数は約17000例であるが、現在、防医大病院における症例数は約11000例である。このため、必要な症例数を防医大病院のみで確保することは困難であることから、自衛隊中央病院と連携して症例数を確保しているところであるが、研修に充分な症例数を確保するのみならず、専門研修、高度専門研修に不可欠な高度医療を実践するため、各専門領域におけるより高度な症例を増加させる必要がある。
 また今後、医官教育の強化、それに伴う離職抑制効果としての充足率の向上等に伴う教育所要の増加、現在、医官の診療科バランスにおいて、外科、救急科が不足している状況の改善、将来の看護官(師)育成に必要な所要等を考慮すると、更なる症例数の増加が必要である。
 これらの症例数増加のためには、現在、一時的に一部の使用を制限している病床、手術室等の施設稼働状況の改善が必要であり、そのための各種医療資格を保有した勤務員の増加について検討が必要である。
 上記のように、防医大病院が臨床研修病院として安定的に症例数を維持・増加させ、高度な医療を実践しつつ医官教育の質を維持・向上させるためには、周囲の同等規模の部外病院と同等程度の医療サービスを提供し得る態勢・体制が必要である。しかしながら、現在の防医大病院の体制は、看護師をはじめとする各種職員数において、必ずしも十分な医療サービスを提供できる状態ではなく、改善が必要である。
 また、平成26年度から開講される医学教育部看護学科(仮称)の新設に伴い、防医大・防医大病院の役割に看護官(師)の育成が追加される。このため、防衛省設置法の改正について、現在国会に提出し審議中である。この医学教育部看護学科(仮称)の新設に伴い、所要の教官等の確保が必要である。
 A今後の方向性
 防衛省・自衛隊のニーズに的確に応え、医官をはじめとする教育所要に資するため、防医大病院の機能を強化する。
 ア 自衛官教育、医学教育等を充実する態勢の整備
 今後、防医大学生が一定期間、防大において訓練を行う等により、卒前の自衛官教育を充実させる。また、自衛隊の任務遂行に必要な医学教育・研修を充実させるため、防医大の受け入れ態勢及び各自衛隊による要員確保等に配意の上、医官教育の強化に係る施策も踏まえつつ、防医大卒業者の医大への配置について取り組む。
 医官の卒後研修(専門医の取得・更新、技能の維持・向上)の拠点として必要な症例を確保できる態勢を整備する。
 看護官(師)の学生教育(臨地実習)及び卒後研修に必要な体制を整備する。
 また、医官、看護官以外の医療資格(看護師、准看護師、救急救命士等)保有隊員の臨床経験も必ずしも十分でないことから、臨床研修の場として活用できるよう検討する。
 これらの教育・研修に必要な症例数を確保するため、現在、一時的に一部の使用を制限している病床、手術室等の施設稼働状況を改善する具体的な方法等について検討する。
 イ 中長期的な検討事項
 将来の増加分を含めた必要な症例数を確保し、防医大病院が臨床研修病院として医官及び看護官(師)の育成を継続的に実施できる態勢・体制の整備について、引き続き検討し必要な処置を講ずる。この際、安定的な症例数を確保し、高度な医療レベルを維持するために、大学病院に求められる質の高い医療サービスを提供し得る態勢・体制の整備についても取り組む必要がある。

 (3)その他の検討事項・情報通信技術の基盤整備

 @現状認識・課題
 現在、電子カルテシステムは自衛隊中央病院のみに導入されており、自衛隊病院及び医務室相互の診療情報の交換は、未だ紹介状、医官相互の電話連絡等によっている。
 また、隊員の健康管理情報は、各自衛隊において身体歴の電子化を進めつつあるものの、自衛隊ごとの特性を反映させた様式、管理要領等を定めている。
 このように、現状では診療情報、健康管理情報等の医療情報の共有化が図られていないため、例えば、行動時のように診療録や身体歴を携行できないような場合に、隊員の診療や健康管理を行うにあたり、既往症の有無等、当該隊員の医療情報を効率的・効果的に活用することが困難である。
 今後、質の高い診療及び健康管理を実施するためには、統合運用の強化を踏まえながらも、各自衛隊の特性を考慮しつつ計画的に診療情報の共有化及び健康管理情報の在り方について検討することが必要である。
 A今後の方向性
 ア 全 般
 「自衛隊病院等の電算化の在り方についての調査」(平成22年10月)等に基づき、各自衛隊の統合的取組を進めるため、施策検討の前提となる統合運用の強化における健康管理施策・体制の全体像について明確化した後、「管理・運営委員会」(平成22年12月設置)において医療のIT化に係る全体的な方針等について検討する。
 イ 中長期的な検討事項
 自衛隊衛生の診療基盤を効率的に維持・向上させるため、自衛隊中央病院における医療情報システムの換装等の時期に合わせて、自衛隊病院の医療IT化や自衛隊病院及び医務室を連接する医療情報ネットワークの導入について検討する。さらに、自衛隊病院と防医大・防医大病院との連携におけるIT活用方針についても検討する。

 2 人材育成・国際協力活動

 人材育成・国際協力活動の分野では、主に「医官教育の強化」について検討を行うとともに、「メディカル・コントロール態勢・体制の整備」、「国際緊急援助隊における外科手術機能の拡充」、「看護師養成課程の4年制化」、「米軍衛生との連携」の5項目について検討した。

 (1)医官教育の強化
 @現状認識・課題
 ア 防衛省・自衛隊が求める医官像
 自衛隊衛生は、多様な任務を適時適切に遂行し得る、訓練された人的資源を十分に保有する必要がある。このため、自衛隊医官は、その階級、役職等に応じて、幹部自衛官たるにふさわしい見識と素養、衛生(科)職域のリーダーとしての統率力を有するとともに、初期医療等を実施し得る総合臨床医としての能力及び集団としてバランスのとれた能力を発揮できるよう、各診療科における専門医としての専門能力及び指導能力を併せ持っていることが求められており、それらの資質及び専門技能の維持・向上に努めている。
 また、その一部には、部隊指揮官や各級司令部等における幕僚としての管理、指導能力、臨床医学分野における指導医としての能力、臨床医学分野のみならず、各種事態に対処できる態勢を保持するため、戦傷医学、潜水医学、航空医学等をはじめとする防衛医学分野における専門家としての能力等を有する医官についても、継続的な養成に努めている。
 各診療科の配分については平成19年以降実施している診療科調整施策により、自衛隊の特性に基づき必要な診療科に必要な人員を配置し、全体としてバランスのとれた医官が育成できるよう調整に努めている。
 イ 医官の低充足と専門技量維持の困難性
 現在、医官の充足率は約7割と低く、特に、国際平和協力活動等において中核となるべき中堅層で低い状況にある。低充足の要因は、医官の離職であり、その主な理由の一つとしては、「医師としての研修・診療機会の不足」が挙げられる。
 「研修・診療機会の不足」の要因としては、自衛隊病院の老朽化、受診患者の減少、指導医の不足等により症例数や種類が十分でないために、自衛隊病院における診療が専門医技能の維持・向上につながらないという現状がある。
 また、それを補う研修等の仕組みも充実していないために、卒後7年目以降は、必要な臨床経験を得る機会が少なく、結果として、医官が自衛隊衛生に必要な専門医技能を維持・向上できないだけでなく、医官そのものが離職してしまうという悪循環を生じている。それを裏付けるように、離職のピークは卒後7年目の専門研修終了時期及び14年目の医学研究科等の最終研修が終了する時期であり、これらの時期は、医官がじ後の研修・診療機会に対する不安を感じる時期と一致している。
 こうした状況を改善し、医官の能力を質・量ともに向上させるためには、研修・診療機会を拡充することが一案であり、陸上自衛隊においては平成19年度から、医官を師団・旅団から方面隊(方面衛生隊)へと集約し、若手医官の研修・診療機会を確保することにより、離職数の低下等、一定の成果を挙げつつある。また、海上自衛隊においては、医官数の減少に反して増加する海外派遣等の所要に対応するため、平成18年度から医官を部隊から病院に集約し、医官の運用に柔軟性を持たせることにより、部隊への支援能力を向上させるとともに、若手医官の研修・診療機会を向上させることにより、陸上自衛隊と同様の成果を挙げている。一方、航空自衛隊においては、質・量ともに増大する臨床航空医学の所要等に応えるため、全国の基地への医官の分散配置を継続しており、部隊任務と診療機会確保の両立が引き続きの課題となっている。
 A今後の方向性
 防衛省・自衛隊としては、研修・診療機会を拡充し、医官の専門技能の修得、維持及び向上を図るとともに、モチベーションの向上、組織に対するロイヤリティーの向上を図ることにより離職を防止し、多様化する任務を適切に遂行し得る医官を養成するための各種施策を総合的かつ可能なものから速やかに講じることとする。
 ア 研修・診療機会の拡充
 部内医療機関で研修・診療する機会を確保することが望ましいことから、自衛隊病院の拠点化・高機能化を着実に推進する。現状として、部内で最も専門的な診療機会を確保し得る防医大・防医大病院において、医官が経歴管理の一環で、指導者たる医師として勤務する態勢を整備する。
 また、部外医療機関において研修・診療を実施できる枠組みを整備するため、通修制度を拡大するとともに、部内において十分な症例が確保できるような診療環境が整うまで、自衛隊衛生に必要な専門技能の維持、向上のために必要な診療を行う場合には、職務の一環として部外医療機関において診療することが可能となるような枠組みの整備について検討する。そうした枠組みの整備を前提として、過渡的な措置として、医官が職務遂行に影響のない範囲で、兼業として、部外医療機関において診療することについて検討する。
 戦傷医学、潜水医学、航空医学等の防衛医学分野の対応能力を向上させるため、国内外での研修の機会を拡大する。
 イ 中長期的な検討事項
 (ア)医官のキャリアパスの整備
 特に、卒後9年目以降の医官のキャリアパスの整備について、引き続き取り組む。その中で、一貫して幹部自衛官としてのプライドの維持・高揚と医師としての高い技能を併せ持つ医官を育てていく。さらに、防医大においても教官等として、指導的役割を担い得る人材の養成を目指す。
 (イ)防医大と各自衛隊との連携
 防医大における教育・研修が、防衛省・自衛隊の医療・衛生の要請に応え得るよう、防医大と各自衛隊等との連携強化を図る必要がある。
 (ウ)他国・他機関等との訓練等
 米軍等関係国・他機関等との共同訓練、研修機会の充実・拡大についても引き続き検討する。

 (2)その他の検討事項
 @メディカル・コントロール態勢・体制の整備
 ア 現状認識・課題
 第一線における救命率向上のため、平素から有事等において実施できる医療行為及びその責任について明確にし、教育訓練に反映させ、准看護師等の医療技術の向上を図ることが必要である。しかしながら、現行ではこれらの責任が不明確であり、教育態勢が確立されていない。
 このため、メディカル・コントロール態勢・体制を整備して、平素から准看護師等が一定の医療行為を実施できる枠組みを構築するとともに、当該隊員が自信をもって医療行為を実施できる態勢・体制を整備することが必要である。
 また、これに先がけて平成23年1月に防衛省職員の健康管理に関する訓令(昭和29年防衛庁訓令第31号)を改正し、船員法に準ずる内容で艦艇における搭載医薬品を整備した。
 イ 今後の方向性
 医療資格(看護師、准看護師、救急救命士等)保有隊員のメディカル・コントロール態勢・体制を整備し、救命率の向上を図る。このため、実施可能な医療行為の範囲、プロトコール、使用医薬品等の範囲、各自衛隊のメディカル・コントロール態勢・体制等について検討する。
 A国際緊急援助隊における外科手術機能の拡充
 ア 現状認識・課題
 平成22年ハイチ地震の際の国際緊急援助活動等における経験を踏まえ、自衛隊も必要に応じて、四肢切断などの外科手術を行うことができるような国際緊急援助隊の医療機能の拡充について検討が必要である。
 イ 今後の方向性
 国際緊急援助隊における外科手術機能の拡充について検討することとし、この際、資器材及び待機体制の整備、実施計画の変更等についても検討する。
 B看護師養成課程の4年制化
 ア 現状認識・課題
 第4回医官及び看護官等の育成に関する検討委員会において、看護師養成課程の4年制化が決定され、それを受け、関係法案を第177回通常国会に提出したところである。
 イ 今後の方向性
 法案審議の状況を踏まえつつ、平成26年度開講に向けて確実に準備を進めていく。
 C米軍衛生との連携
 ア 現状認識・課題
 東日本大震災における諸活動の状況から、今後、各種行動において医療分野でも米国との連携強化が求められていく中、米軍衛生との平素からの共同・連携については不十分である。
 イ 今後の方向性
 医官教育強化策の一つとして、米海軍病院(横須賀・沖縄)における短期研修を検討する。平素より米軍衛生とコミュニケーションを図ることは、米軍との共同・連携を円滑に実施する上で大変重要であり、医官のモチベーション向上にも資するものである。さらに、今後は他の医療資格保有隊員への拡大や交流範囲の拡大についても検討する。

 ・今後の取組
今般取りまとめられた対策、即ち、@自衛隊病院の拠点化・高機能化、A防医大・防医大病院の機能強化、B医官の防医大・防医大病院における勤務機会の拡大、C部外医療機関の活用及びD防衛医学分野の充実については、できるだけ早期に施策化し、実施する。ただし、特に、防医大の役割及び態勢の在り方については、引き続き省内全体で議論・検討すべき課題が残されている。このため、本委員会における検討成果の施策化に当たっては、本委員会の枠組みの中で引き続き十分な議論を行い、検討を深化させる。
また、情報通信技術の基盤整備、メディカル・コントロール態勢・体制の整備及び米軍衛生との連携についても、可能なものから早期に実施し、看護師養成課程の4年制化については、引き続き実務を進めていく。
実施した施策については、実施状況を把握・評価し、必要な見直しを行う。さらに、衛生基盤関連として、自衛隊病院と防医大病院との連携、防衛省・自衛隊における衛生要員と全般能力のあるべき姿、健康管理体制の在り方等、また、人材育成・国際協力活動関連として、医療資格保有隊員の教育、防衛医学分野における多国間の活動をリードできる人材の育成、医官の人事管理及び処遇等の課題があげられ、本委員会で検討し、取り組むこととする。

<終わり>