●はじめに
●第1部 新たな日本の安全保障戦略
●第2部 新たな安全保障戦略を実現するための政策課題
●第3部 防衛力のあり方
●第4部 新たな「防衛計画の大綱」に関する提言
●付言 更に検討を進めるべき課題──憲法問題
●おわりに |
はじめに
私たちは急激な変化の時代に生きています。世界が東西両陣営の衝突におびえた冷戦の時代は終わり、超大国による日本侵攻という想定は遠のきました。しかし冷戦終結は世界の平和と安定を約束するものではありませんでした。冷戦後、世界各地で民族・宗教紛争などさまざまな対立が噴出し、大規模なテロが続いています。グローバル化の進展により、脅威もまた国境と地域をとび越えて、思わぬかたちでやって来る時代となりました。冷戦後の世界から見ると、冷戦期にはむしろ堅固な秩序があったようにすら感じられます。
本懇談会では、安全保障をめぐる国際環境はどう変わったのか、新たな環境の下で日本はどのような脅威にさらされているのか、国と国民を守るためにどのような安全保障政策、防衛力が必要なのかを検討してまいりました。
国際テロをはじめとする新たな脅威の高まり、軍事技術の飛躍的革新、安全保障・防衛に対する国民的関心の高まりの中で開かれた今回の懇談会における意見の大勢は、次の2点であったように思います。
一つ目は、今日の安全保障環境の下では、さまざまな脅威への水際での対処に加え、できるだけ早期に、外側で脅威の予防、火消しに努めることが重要だということであります。その意味で、迂遠なように見える国際平和協力が、重要な自衛の手段たり得るということでありました。
二つ目の論点は、縦割り組織の弊害が見られがちな中で、省庁をまたぐ統合的な意思決定・連携や国家緊急事態における待ったなしの意思決定を現実にどううまく機能させるかということであったと思います。この点については、情報機能の充実と安全保障会議の積極的な活用が重要だということでありました。
話は変わりますが、阿川弘之氏によれば、最後の海軍大将として知られる井上成美は、太平洋戦争開戦の年に大艦巨砲の建造を求める軍令部の膨大な予算要求に対し、「明治の頭を以て昭和の軍備を行わんとするもの」と断じ、これから必要なのは「海軍の空軍化だ」と述べたそうです。今回の懇談会の議論を進めるにあたり、常にそのことが念頭にありました。井上成美が今日の世界をみて何と言うかわかりませんが、私は21世紀の安全保障と防衛においては、「ソフト」の重要性がますます高まっていくのではないかと思います。しかるべき「ハード」はもちろん必要ですが、組織・装備の十全な機能発揮を支えるのは情報やシステムの力であります。また広く外交、文化交流や経済協力も脅威の発生を防ぐ一翼を担っているように思います。その意味で、防衛・治安組織、さらには政府全体としての総力発揮に加え、国民全体が国を思い、平和と安全を守るため、わが国のハード、ソフト両面のパワーを結集することが大切ではないでしょうか。
今回、時間的制約から検討を詰め切れない点もありましたが、委員の皆さんの積極的なご意見、ご協力および事務局として懇談会を支えてくれた内閣官房の皆さんのご努力により、この報告書をまとめることができました。ご尽力いただいた皆さんに心から感謝申し上げるとともに、本報告書がわが国および国民の安全保障に資することを切に願っております。
安全保障と防衛力に関する懇談会
座長 荒 木 浩 |
「安全保障と防衛力に関する懇談会」メンバー
座長=荒木浩(東京電力顧問)▽座長代理=張富士夫(トヨタ自動車株式会社社長)▽委員=五百旗頭真(神戸大学法学部教授)、佐藤謙(財団法人世界平和研究所副会長、元防衛事務次官)、田中明彦(東京大学東洋文化研究所教授)、西元徹也(日本地雷処理を支援する会会長、元防衛庁統合幕僚会議議長)、樋渡由美(上智大学外国語学部教授)、古川貞二郎(前内閣官房副長官)、柳井俊二(中央大学法学部教授、前駐米大使)、山崎正和(東亜大学学長)
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