防衛関係資料


未来への安全保障・防衛力ビジョン
「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書

●はじめに
●第1部 新たな日本の安全保障戦略 
●第2部 新たな安全保障戦略を実現するための政策課題 
●第3部 防衛力のあり方 
●第4部 新たな「防衛計画の大綱」に関する提言
●付言  更に検討を進めるべき課題──憲法問題
●おわりに
 
第2部 新たな安全保障戦略を実現するための政策課題

 第1部で述べたとおり、新たな安全保障環境の下で、わが国は、予測困難な多様な脅威の予防に努めつつ、それが顕在化した場合には迅速・的確に対処しうる体制を構築しなければならない。また、グローバル化がさらに進展する中で、同盟国をはじめ世界各国との協力なしには新たな脅威に対処することは不可能な状況にある。第2部では、このような安全保障環境の下、新たな安全保障戦略を実現する上で不可欠な、政府全体として取り組むべき政策課題について述べることとする。

1 統合的安全保障戦略の実現に向けた体制整備

 総論で述べたように、安全保障を実現するための体制は、統合性が確保されたものでなければならない。縦割組織の弊を排し、迅速かつ有効な政策決定のできる仕組みを整備する必要がある。以下では、第一に緊急事態対処の体制整備、第二に情報能力の強化、第三に安全保障会議の機能の抜本的強化、第四に国としての政策決定基盤について提言する。

 (1)緊急事態対処

 安全保障政策に関する政府としての意思決定や、緊急事態に際しての意思決定は、国全体としての基本的な方針を示すものであり、内閣総理大臣のリーダーシップの下で適切に行われなければならない。そのためには、内閣総理大臣を支える内閣官房が十分な企画立案機能や危機対処機能を有する必要がある。
 内閣総理大臣は、閣議決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督することとなっているが、国家の緊急事態において、迅速・的確な意思決定を行う観点からは、格別な工夫が必要である。特に、弾道ミサイルへの対応について、発射から着弾までの10分程度の間に閣議を開いて対処方針を決めるのは、きわめて難しい。そのような中で迅速かつ的確に国としての意思を決定するための仕組みについて、現場において適切な対応ができるよう、権限の分配のあり方等を含めて早急に検討し、結論を出さなければならない。この問題も含め安全保障会議の機動的運用、平素からのさまざまなケーススタディの実施、さらに政府全体としての情報通信インフラの整備などにより、迅速・的確な意思決定に遺漏なきを期す必要がある。
 複雑・多様な国家の緊急事態に際しては、政府が一体となって統合的に対応し、関係機関の間で適切な役割分担を行う必要がある。一般的に言えば、治安の維持や災害救援などの分野については、警察、消防、海上保安庁など治安や防災を担当する機関が中心となって対応し、自衛隊はこれらの機関の補完的役割を果たすのが原則である。ただし、化学剤や細菌を使用したテロ、放射線による汚染などを含む特殊災害、重武装の外国集団の侵入事案などであって治安担当機関等だけでは対処できないものについては、自衛隊が関係機関と連携して対処することが求められる。このように考えると、自衛隊と治安担当機関等の間では、セクショナリズムに陥ることなく、明確な役割分担と切れ目のない協働の仕組みを設けておく必要がある。また、こうした協力関係を実効的なものとするため、平素から共同訓練や人事交流を活発に行い、中央から現場に至るまで各レベルで緊密な関係を形成することが求められる。
 国の意思決定メカニズムの問題は、わが国のみの問題ではない。武力攻撃事態における日米共同対処を円滑かつ適切なものとするため、両国間で常に緊密な連絡を保つとともに、双方の意思決定の流れを検証し、対処マニュアルを用意しておく必要がある。
 緊急事態対処に関する国の意思決定のうちでも防衛力の運用については、その重大性にかんがみ、国会や内閣総理大臣などによる重層的なシビリアンコントロールの仕組みが設けられている。政治による軍事の統制という民主国家の原則はきわめて重要である。政府としても、関係する政策部局の十分な補佐を確保するなどにより、政治レベルでの意思決定を適切に行いうる体制を確立することが何よりも必要である。

 (2)情報能力の強化

 安全保障及び緊急事態に際しての意思決定が、内閣総理大臣のリーダーシップの下で適切に行われるためには、必要な情報が情報関係者と政策決定者の間で迅速に共有されることが不可欠である。
 冷戦期には、比較的明確な軍事的脅威が存在していたのに対し、冷戦後、特に9・11テロ以降の新たな脅威は、主体、態様ともに多様かつ不明確なものとなった。こうした脅威に的確に対応するためには、何よりも脅威の動向を早期に探知し、その顕在化の防止に努めなければならない。このため、専門的で精度の高い情報収集・分析を適時的確に行いうる能力の一層の強化が喫緊の課題である。

 ア 情報収集手段の多様化・強化
 衛星等の技術的手段により入手した画像情報、電波情報などは、周辺諸国の軍事動向を把握するために有用であるとともに、国際テロなどの新たな脅威に対処するためにもきわめて有効である。それゆえ、宇宙の開発及び利用に関する国会決議との関係を整理しつつ、情報収集衛星のさらなる能力向上を図るとともに、これら技術的に収集された情報について広く安全保障・危機管理に係る情報収集手段として、秘密保全に留意しつつ、政府の意思決定に、より適切に活用するべきである。
 さらに、非国家主体などの、外部からの認知が困難な新しい脅威に対しては、人的情報手段による細やかな対応の重要性が高まる。このため、地域専門家等や海外の情報専門家との協力など、人的情報手段の有効活用を早急に進めるべきである。

 イ 情報集約・共有・分析機能の強化
 内閣の情報能力を強化するため、安全保障・危機管理に必要な情報が迅速・的確に内閣に集約され、国全体の政策決定に資する体制を構築することが重要である。このため、平素から内閣情報会議、合同情報会議等の活用により、政府の基本方針・重点項目に沿った各省庁の情報収集・分析、その成果の検証・評価及び情報共有を推進する必要がある。その日常的努力こそが緊急時において内閣が機動的かつ精度の高い情報収集・分析を行うための基礎となる。
 特に、明確な役割分担の下で各省庁が収集した情報を的確に活用することが重要であり、内閣情報会議を主宰する官房長官の指名にしたがって、高度の知見を有し全ての情報に接することが可能な各省庁のスタッフを内閣情報官の下に集めることなどにより、内閣として情報の集約・共有を強化すべきである。
 また、冷戦後、安全保障上の懸念事項が複雑・多様化し、国際的にも広がりを見せる中にあって、安全保障の観点から分析を要する対象も拡大している。このため、情報分析能力を向上させるとともに、政府部内で人材の確保、養成に努め、官学の交流や政府とNGOの協力等を通じて、国全体として専門的な知見を蓄積・総合化し、効果的に活用するよう努めるべきである。

 ウ 情報の保全体制の確立
 共有した情報が外部に漏洩するようなことがあれば、情報の共有は困難となり、機微にふれる国際情報の持続的取得も妨げられるであろう。国を挙げて情報の集約・分析・活用を進めるには、情報の厳格な保全体制の確立が不可欠の前提となる。このため、安全保障・危機管理情報を扱う関係者に共通の厳格かつ明確な情報保全ルールを作り、実施することが不可欠である。その際、機密情報漏洩に関する罰則の強化も検討すべきである。

 エ 情報についての国際協力のあり方
 国際的なネットワークを有する新たな脅威に効果的に対処するには、情報面でも国際協力を強化する必要がある。その際、諸外国から価値のある情報を得るためには、日本が自身の情報収集・分析能力を高め、ギブ・アンド・テイクの関係を築くことが必要となる。国際協力を効果的に進めるためにも、日本として独自に保有すべき情報能力と他国に依存しても良いものを区別するなどして、有効かつ効率的な情報体制を構築すべきである。

 (3)安全保障会議の機能の抜本的強化

 以上述べた緊急事態への対応にせよ、情報能力の強化にせよ、統合的安全保障戦略としてこれらを一貫した形で実現させるためには、内閣としての頭脳に当たる仕組みを整備しなければならない。本報告書では、そのために現在の安全保障会議の機能を抜本的に強化することを提案する。
 安全保障会議は、国防に関する重要事項及び重大緊急事態への対処に関する重要事項を審議する機関として内閣に置かれている。このほど有事関連法制整備の一環として、緊急事態における政府の意思決定手続き強化を目的とする法改正がなされた。それにより安全保障会議は、「防衛計画の大綱」等の策定と、武力攻撃事態等の緊急事態への現実の対処の両面にわたり、政府の意思決定における中心的な役割を果たすこととなった。今後は、統合的安全保障戦略実施の中核組織として、安全保障会議の機能を抜本的に強化しなければならない。
 特に、平素から会議のコアメンバーの閣僚による情報伝達のための訓練や分析のための会合の頻繁な開催に努め、いざというときに安全保障会議を機動的に運用し、迅速・的確に意思決定を行いうるようにすることが重要である。加えて、安全保障会議の下に設けられた事態対処専門委員会で、各種の緊急事態への対応策を常日頃から検討する体制を充実すべきである。
 安全保障会議の機能として、国家の安全保障政策全体を常にモニターし、その整合を図る役割も加える必要がある。このため統合安全保障のための年次指針、年次報告書を作成すべきである。また、例えば米国のNSC(注6)などを参考としながら、国家の安全保障戦略を閣僚間で密度高く議論する場として活用すべきである。こうした目的のため、内閣官房のスタッフの強化を図るとともに、部内外の専門家による政策研究の場を設けるべきである。
 なお、現在、国防の機能は国務大臣たる防衛庁長官の下で内閣府の外局である防衛庁が担当しているが、国防組織のあり方については、国家の存立に係わる国防機能の重要性にかんがみ、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣に対する補佐体制の充実等の観点を踏まえつつ、諸外国の例なども参考としながら議論していくべきである。

 (4)安全保障政策の基盤の整備

 政策決定の仕組みを実質的に機能させるためには、その運営に当る人材の育成が重要であり、政府全体として安全保障・危機管理に従事する中核要員を育成する必要がある。関係機関で質の高い人材の確保に努めるのは下より、採用後は、実務経験に過度に依存した従来の養成システムを見直し、高度の専門知識を獲得させるために国内外への留学の機会を増やすとともに、内閣官房を中心とする関係省庁間の人事交流や官民・官学の人的交流を活発化して、出身省庁にとらわれず政府全体としての視野を有する人材を育成すべきである。また、安全保障問題、あるいは安全保障政策を専門的に考究する「知の中心」として、政府・非政府の安全保障シンクタンクを育成・強化すべきである。
 なお、安全保障政策の基盤の一部をなす法制度に関連し、特にテロの未然防止に必要な法制度の整備が急務となっている。諸外国における法制度やその運用状況を参考としながら、国民の理解が得られる形で早急に法制の整備を図るべきである。

2 日米同盟のあり方

 (1)日米同盟、日米安保体制の意義

 グローバルな安全保障環境は大きく変化しているものの、日本周辺地域には依然として伝統的な不安定要因が存在している。日米安保体制とそれに基づく米軍のプレゼンスは、今後ともわが国防衛の大きな柱であるとともに、この地域にとって不可欠の安定化要因であり続けている。
 9・11テロ事件以降、米国は、特定国の軍事的脅威を対象とする従来の安全保障戦略を転換し、テロリストやならず者国家といった非対称的脅威への対処に全力を傾けるとともに、テロリストなどによる大量破壊兵器の入手を防ぐことを戦略目標としている。このため、米国は伝統的な抑止戦略を転換し、予測困難な新たな脅威に柔軟に対処するための情報能力や機動展開能力などの充実を図るとともに、グローバルな規模で米軍の変革を進め、同盟国、友好国との更なる関係強化を図っている。
 テロリストや大量破壊兵器、ミサイルなどの拡散は、日本の安全保障にとっても大きな脅威である。これらへの対応は到底一国のみでなしうるものではなく、国際社会と協力しながら取り組んでいかねばならない。こうした国際的取組の中心となっているのは同盟国たる米国であり、国際社会との連携の下で行われる日米協力の機会が今後ますます増大していくであろうことに留意しなければならない。

 (2)日米同盟の維持・強化

 日米同盟関係を維持・強化していく努力は、不断に続けられなければならない。わが国防衛の見地からは、1997年に策定された、現行の「日米防衛協力のための指針」にしたがって、わが国有事及び周辺事態における日米協力のあり方を具体化していくことが重要である。
 このため、同「指針」に基づいて設けられている「包括的なメカニズム」を活性化して率直な意見交換を行うとともに、日本有事や周辺事態における日米協力のあり方について、引き続き緊密に協議していくべきである。その際、このメカニズムをより効果的に運用するため、防衛庁、外務省だけでなく、必要に応じて内閣官房をはじめ、警察、消防、海上保安庁などの関係機関を含め、日本政府全体として米国と協議を行う必要がある。
 さらに、日米間の戦略的な対話を通じて新たな安全保障環境とその下における戦略目標に関する日米の認識の共通性を高める必要がある。現在推進されているグローバルな米軍の変革については、日米間の安全保障関係全般に関する幅広い包括的な戦略対話の重要な契機と捉え、抑止力としての米軍の機能をも踏まえつつ、積極的に協議を進めるべきである。
 その際、わが国は、米国との間で日本の防衛や周辺地域の安定のみならず、国際社会全体の着実な安定化により、わが国に対する脅威の発生を予防するとの目的に資するような協力関係の構築を目指す必要がある。例えば、日米間でより質の高い情報協力を実現することができれば、対話の実を上げ、より有効な同盟関係を構築することが可能となる。わが国としては冷静かつ客観的な分析成果を独自の視点から提供しうるよう情報収集・分析能力をさらに向上させていくべきである。政府は、このような努力を払うとともに、日本の独自性をも踏まえつつ、日米間の役割分担などを含め主体的に米国との戦略協議を実施すべきである。さらに、こうした協議の成果を反映する形で、時代に適合した新たな「日米安保共同宣言」や新たな「日米防衛協力のための指針」を策定すべきである。
 また、安定的な同盟関係を長期的に維持するため、政府は、政治の強力なリーダーシップの下、在日米軍基地に関する日本の立場・考え方について米国との間で相互理解を深めるとともに、日米両国が協力して地域社会の負担軽減等に取り組んでいく必要がある。

3 国際平和協力の推進

 (1)国際平和協力に対する日本の取組

 わが国は、自らの安全を一層確かなものとするためにも、世界各地、とりわけさまざまな形でわが国とのつながりが深い地域の安定化のために、わが国の優れた技術力や行政能力などを生かしつつ国際社会の取組に積極的に参加すべきである。このため、以下に述べるような体制の整備を図るとともに、平和構築に向けて国際社会がさらに協調を深められるよう、安保理改革など国連の制度自体を改善するために努力することも必要である。

 (2)国際平和協力の実施体制

 近年、国際社会は、平和維持にとどまらず、紛争の予防から紛争後の国家再建に至る一連の活動を発展させてきている。これを踏まえ、自衛隊のみならず、政府全体として統合的に国際平和協力に取り組むべきであり、具体的には次のような努力が必要になる。

 ア 各機関の連携強化による国際平和協力の効果的実施
 現在、国際平和協力のための要員派遣などの業務は、内閣府、防衛庁、外務省など複数の機関が担当している。これら各機関が相互に緊密に連携し、個々のケースに応じて安全保障上の要請を満たしうるよう各種手段を適切に組み合わせて政府全体として効果的な協力を実現しうるような仕組みを整備することが必要である。さらに、政府職員に限らずNGO要員も含めて、国際平和協力活動に参加する者の士気高揚のため、その名誉や処遇に配慮することも必要である。

 イ 実施主体間の役割分担の明確化
 わが国として持てる手段を有効に組み合わせて活用していく上で、自衛隊には何を期待し、文民には何を期待するかという点について明確な指針が必要である。自衛隊はこれまで人道復興支援と後方支援に従事してきたが、これらの活動が成果を上げるためには、現地の治安状況の改善が不可欠である。今後は、これまで同様、経験と実績のある人道復興支援と後方支援を中心とする活動を展開していくのか、それとも自衛隊の能力に着目して、いわゆる治安維持のための警察的活動の実施をも視野に入れるのか、政府において十分検討すべきである。また、その際には、任務遂行に必要な武器使用の権限を自衛隊に付与することも併せて検討する必要がある。

 ウ 自衛隊の本来任務としての国際平和協力
 これまで述べたように、国際社会において平和協力活動が一層拡充しつつある上、国際社会が行うそうした活動への参加が日本の安全保障にとってますます重要になっている。従来、国際平和協力活動は自衛隊の付随的任務として位置づけられてきたが、そうした活動の重要性の増大にかんがみれば、自衛隊の本来任務として位置付けるべきである。

 エ 警察による協力体制の充実
 最近の国際平和協力活動においては、現地の治安を改善するため現地警察を育成することが大きな課題となってきている。日本の警察制度や警察官の実務能力が国際的に高い評価を得ていることも踏まえ、日本としても、現地警察の育成のために必要な教育訓練などができるよう協力体制を可能な限り充実させるべきである。

 オ 要員の安全確保
 安全の確保は、国際平和協力に携わる全ての人に共通の課題である。この問題は、武器使用権限の拡大と密接に関係するが、単に武器使用権限を拡大するだけでは解決しない。武器使用権限の検討も重要であるが、それだけでなく、政府は要員の安全確保を目的とする情報収集・共有のための体制づくりや、安全管理のための計画づくり、ODAとの効果的な連携などをさらに充実させるべきである。

 カ 国際平和協力のための一般法の整備
 これまでは、新たな事態が生起して平和協力活動の必要が生じるごとに特別措置法を作って対応してきた。今後とも、武力を行使することなく、国際社会の責任ある一員として平和で安定した国際環境の構築に参加するなど、日本の国際平和協力の理念を内外に示すとともに、日本としてこれに一貫して、かつ迅速に取り組んでいくことができるよう、一般法の整備を検討すべきである。その際、日本に相応しい協力とは何かを十分に検討の上、国民的合意を得つつ、任務及び任務遂行に必要な権限を明確にするべきである。

4 装備・技術基盤の改革

 (1)生産・技術基盤の維持と防衛産業の合理化

 わが国が高度の防衛生産・技術基盤を維持する必要については、日本としての安全保障政策の独自性の維持、海外からの装備調達に当っての交渉力の確保、緊急時の武器急速取得等の観点から、従来より配慮されてきた。
 近年、先進主要国の防衛産業は、技術進歩の高速化や新装備の高価格化などを受けて、国際的な連携と分業体制を構築することによって効率性を高め、競争力を維持しようとしている。一方、日本は、国際共同開発等を通じた先進諸国の技術進歩から取り残されることが懸念される状況にある。
 今日、冷戦期とは異なり、大規模な軍事行動によって海外から日本に向けた物資の輸送が途絶する可能性は低下している。さらに、防衛関係費の今後の動向などを考えれば、生産基盤を総花的に維持することは困難となっている。こうした状況を踏まえ、原則国産化を追求してきた方針を見直すべきである。独自に保有すべき能力と他国に依存しても良いものを明確に区別し、「中核技術」について最高水準を維持していくことにより、真に効率的で競争力のある防衛生産・技術基盤を構築する必要がある。

 (2)武器輸出三原則

 わが国の武器輸出三原則は、国際紛争等の助長を回避するという基本理念の下、1967年に採用された。1970年代にいったん禁輸対象地域などが拡大された後、1983年には同盟国たる米国への武器技術供与のみが一定の条件の下で認められるに至った。このような政策の基本理念は、国際社会の平和と安定を確保するという今日の安全保障上の要請に応えるものであり、重要な意義を有している。また、これらに加えて、わが国では、従来より核兵器不拡散条約(NPT)、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)等の枠組みへの参加や小型武器問題への積極的な取組を通じて軍縮・不拡散を進めることにより、国際紛争の助長回避に努めてきたところである。
 以上を踏まえつつも、70年代半ばよりとられてきた武器禁輸については、再検討されねばならない。まず、国際共同開発、分担生産が国際的に主流になりつつある現在、日本の安全保障上不可欠な「中核技術」を維持するためには、これに参加することのできる方策を検討すべきである。さらに、現在の弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究が共同開発・生産に進む場合には、武器輸出三原則等を見直す必要が生じる。これらの事情を考慮すれば、少なくとも同盟国たる米国との間で、武器禁輸を緩和するべきである。
 その際、相手方や対象となる武器・技術の範囲などの武器輸出管理のあり方については、政府において、上述の基本理念を引き続き尊重しつつ、本件の取扱いに関するこれまでの経緯や各界の意見を踏まえながら検討すべきである。

 (3)調達及び研究開発の効率化

 近年の技術進歩に伴う装備品の高度化とともに、装備品の調達コストは高騰する一方であり、装備品の調達に関するコスト低減に向けて引き続き官民が一体となって取り組むことが必要である。特に、装備品のファミリー化、汎用品の活用による調達ソースの多様化、企業間競争の促進などにより、調達コストの低減に努めるべきである。
 また、技術進歩が著しいにもかかわらず、少数の装備品を長時間かけて調達する場合には、結果的にコスト高を招くとともに、導入が終了する頃には陳腐化しているという恐れも出てくる。今後は、科学技術の進展のスピードに的確に対応するとともに、調達・維持コストの低減を図るために、例えばC4ISR(注7)等の大規模なシステム構築が必要な装備品などについては、短期集中取得を行うなどの工夫が必要である。
 さらに、装備品の研究開発については、産学官の連携の強化、重点分野の見直しによる「選択と集中」の徹底、研究開発プロジェクトの不断の見直し等により、効率化を徹底する必要がある。

 注6 1947年の国家安全保障基本法により設立された米国の国家安全保障会議。国家安全保障及び外交政策について大統領を助言し支援すること、並びに政府内の政策調整を行うことを任務とする。公式メンバーは、大統領(議長)、副大統領、国務長官、国防長官の4名。公式アドバイザーは中央情報局(CIA)長官と統合参謀本部(JCS)議長の2名。
 注7 指揮(command)、統制(control)、通信(communications)、コンピュータ(computers)、情報(intelligence)、監視(surveillance)、偵察(reconnaissance)の略語である。これらは、敵の動向を正確に把握し、味方を適切に運用するための機能であり、効率・効果的な軍事作戦の遂行に不可欠である。近年では使用装備品の優劣と並んで、軍事作戦の成否に決定的な影響を与えると考えられている。