防衛関係資料


国家安全保障に関する官邸機能強化会議(報告書)
[2007.3.8付朝雲]

 1 はじめに

 わが国の平和と独立を確保し、国民の生命・財産を守ることは、政府の最も重要な責務であり、正確かつ総合的な情勢判断に基づき、時代の変化に迅速かつ的確に対応した外交・安全保障政策を展開することが不可欠である。
 しかるに、わが国をめぐる国際環境は厳しさを増している。東アジアでは北朝鮮の核や拉致等の問題があり、世界的にもテロの頻発や大量破壊兵器の拡散、地域紛争や民族紛争の激化といった新しい脅威が出現している。このような時代には、脅威の発生を未然に防ぐことまで視野に入れた、先見性と構想力を持った、総合的な取組みが必要である。
 現在のわが国の国家安全保障に関する政策は、国防と重大緊急事態という限定された諮問事項を有する安全保障会議に加え、内閣官房、外務省、防衛省を中心に立案、決定されているが、幅広い外交・安全保障上の課題について総合的・戦略的に政策を企画立案する体制が構築されていない。
 安倍内閣においては、外交と安全保障の国家戦略を政治の強力なリーダーシップにより迅速に決定できるよう、官邸における司令塔機能を再編・強化することとしている。「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」は、国家安全保障に関する官邸の司令塔機能の強化について検討することを目的として設置され、平成18年11月22日に第1回会議を開催した。
 本会議では、各国の大統領府・首相府の司令塔の仕組みや、わが国の国防会議や安全保障会議の歩みなどを踏まえ、わが国にふさわしい国家安全保障に関する司令塔の仕組みはいかにあるべきかについて集中的・精力的に議論し、平成19年2月27日までに7回の会議を重ね、最終的な意見をとりまとめるに至った。

 2 国家安全保障に関する司令塔の機能・役割

 国家安全保障に関する司令塔の機能・役割としては、(1)外交・安全保障の重要事項に関する基本方針、(2)複数の省庁の所掌に属する重要な外交・安全保障政策、そして、(3)外交・安全保障上の重大事態への対処に関する基本方針について、それぞれ審議することにある。
 (1)外交・安全保障の重要事項に関する基本方針
 激動する国際社会の中で、わが国が良好な国際関係を維持しつつ、豊かで平和な社会を引き続き発展させるためには、わが国全体の「国益」を長期的視点から見定めた上で、世界の中で日本の進むべき針路を決める必要があり、国家安全保障に関する長期的戦略は欠かすことができない。
 総理官邸がリーダーシップをとって、これらの様々な政策を横断した総合的かつ長期的な国家目標を示し、各省庁はその目標に沿って個別の政策を実行していくことが重要である。国家安全保障の長期的戦略や個別の分野毎の長期的戦略に関する報告書を随時作成することは、そのための一つの有効な手段と考えられる。
 (2)複数の省庁の所掌に属する重要な外交・安全保障政策
 国家安全保障の重要課題には各省庁の所掌にまたがる複雑な問題が多い。その場合、各省庁の利害が衝突して迅速かつ的確な判断が妨げられることは国益を損なうものである。国家安全保障問題という国の命運を左右する問題については、高いレベルで、しかも密度の濃い議論を行うことが必要である。
 このため、総理官邸が国家安全保障問題について迅速かつ的確な判断を行えるような仕組みを作ることが重要である。
 (3)外交・安全保障上の重大事態への対処に関する基本方針
 国家緊急事態が生起した際には、政府一丸となって、国民の生命と財産を守らなければならない。そのためには、平素から、想定される様々な国家緊急事態に対して、どのように対応すべきかを研究し、そして実践的な訓練を繰り返しておき、実際に国家緊急事態が生起した場合においては、総理官邸がリーダーシップをとって国家緊急事態への対処に関する基本方針を示し、政府全体で、冷静沈着に、かつ毅然とした対応がとれるような態勢を構築しておく必要がある。

 3 司令塔の仕組み

 1.新たな会議体
 昭和61年に設置された安全保障会議は、昭和29年に設置された国防会議を発展的に継承したものであり、(1)国防の基本方針、(2)防衛計画の大綱、(3)武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針、(4)周辺事態への対処に関する重要事項、(5)重大緊急事態への対処に関する重要事項などを審議することとされている。
 現在の安全保障会議の審議事項は国防・武力攻撃事態等その他重大緊急事態への対処といった極めて限定されたものである上、構成員も多く、国家安全保障上の幅広い重要課題について実質的・機動的な議論を行うには不十分である。
 このため、安全保障会議を抜本的に見直し、その機能を吸収して上記2で述べた機能・役割を果たす「国家安全保障会議」(仮称)を内閣の下に新たに創設する。
 「国家安全保障会議」(仮称)は、国家安全保障に関して、大局的な観点に立った議論を行い、各関係省庁に対して基本的な針路を示すものである。審議事項としては、現行の安全保障会議の諮問事項を整理統合した上で拡充し、(1)外交・安全保障の重要事項に関する基本方針(国防の基本方針、防衛計画の大綱を含む。)、(2)複数の省庁の所掌に属する重要な外交・安全保障政策、(3)外交・安全保障上の重大事態(武力攻撃事態等その他重大緊急事態を含む。)への対処に関する基本方針、とすることが適当である。
 ただし、同会議で取り上げる重要事項をあらかじめ厳格に定めておくことは、かえって会議の硬直化、形式化を招くので、適当ではない。なお、内閣としての最終的な意思決定はあくまで閣議により行われ、同会議がこれに代わるものではないことは、言うまでもない。
 同会議が、国家安全保障に関する重要事項を機動的かつ実質的に審議する場となるよう、構成員は総理大臣及び少数の閣僚に限定することが適当であり、具体的には、総理大臣(議長)、内閣官房長官、外務大臣、防衛大臣とし、議長が必要と認めるときは、他の関係閣僚を構成員として参加させるものとする。国家安全保障問題担当総理補佐官は常時出席し、議長の指示を受け意見を述べるものとする。議長が必要と認めるときは、統幕長その他の関係者を出席させ、議長の指示により意見を述べさせるものとする。
 なお、審議事項が、防衛計画の大綱や武力攻撃事態等に関するものなど、現在の安全保障会議の諮問事項に関するものであるときは、現在の安全保障会議のメンバーで審議するものとする。
 また、「国家安全保障会議」(仮称)は、少なくとも月に二度は会合し、かつ、議長が必要と認める場合に随時会合することとする。
 資源・エネルギー、海外経済協力、経済外交などについて専門的な見地から議論を深めるため、議長が必要と認める場合には、閣僚級その他の専門会議を設けることができることとする。
 現行の事態対処専門委員会は、「国家安全保障会議」(仮称)の下部機関として引き続き維持し、正確な情報分析に基づき的確な対応を一層とり得るよう、その機能を強化することが適当である。
 なお、大規模災害、テロ、ハイジャック等への対応について、通常の緊急事態対処体制によって適切に対処することが困難な事態に至るような場合には、「国家安全保障会議」(仮称)においても、その対処に関する重要事項を審議するなど、的確に対応する必要がある。
 2.国家安全保障問題担当総理補佐官
 我が国の国家安全保障に関する機能を強化し、その機能を安定させるため、国家安全保障問題担当の内閣総理大臣補佐官は、常設の補佐官とすることが適当である。
 また、国家安全保障問題担当総理補佐官は、定期的に総理大臣に報告を行い、総理大臣に進言・意見具申しつつ直接指示を受けるなど、総理大臣に常時アクセスして緊密に意思疎通することが重要である。
 更に、国家安全保障問題担当総理補佐官は、総理大臣の命を受けて各国を訪問し、我が国の外交・安全保障政策の推進のため活動することが適当である。
 3.事務局
 「国家安全保障会議」(仮称)を、機動的かつ実質的な議論を行い得る場とするためには、恒常的な事務局を設けることが不可欠である。
 事務局は、効率的で簡素なものとし、少数精鋭のスタッフで構成し、議長の指示するところに従い、必要な業務を行う。
 事務局長を置き、総理大臣の判断により、国家安全保障問題担当総理補佐官に事務局長を兼任させることもできることとする。国家安全保障問題担当総理補佐官に事務局長を兼任させない場合には、事務局長はその業務の遂行に関し、国家安全保障問題担当総理補佐官と常に緊密な連携を図るものとする。事務局長は、「国家安全保障会議」(仮称)に常時出席し、議長の指示に従い、会議に関し必要な業務を行う。
 事務局長の下に、事務局次長(次官級)を置き、原則として、官房副長官補(外政担当、安全保障・危機管理担当)をもって兼任させる。
 事務局員は、専任10名〜20名程度で構成し、その中核メンバーは特別職とし、職務の分掌を固定的とせず、協力して職務を遂行する。このため、事務局は、共同の執務室を総理官邸内に設けることが適当である。また、事務局員には、自衛官を積極的に活用するとともに、民間専門家、研究者を加えることができることとし、更に、事務局には、外交・安全保障の専門家若干名を顧問として置くことができることとする。
 事務局は、国家安全保障に関し、政府・行政機関が一体となって総合的に機能するための中核的な役割を果たすものとする。
 4.情報部門との連接
 国家安全保障に関する機能を強化する上で、情報部門の強化及び政策部門と情報部門との連接は不可欠である。政府全体の情報収集機能及び情報分析機能を強化することはもとより、情報部門が政策部門に対して必要かつ適切な情報をタイムリーに提供することなくして、的確な政策を立案することはできない。
 このため、内閣情報官をはじめ関係省庁の情報当局者は、緊密な連絡のもと、「国家安全保障会議」(仮称)に対し、必要かつ適切な情報を常時提供するものとする。
 国家安全保障問題担当総理補佐官及び事務局長は、定期的に内閣情報官等のブリーフを受け、また総理大臣へのブリーフに同席することが望ましい。
 5.秘密保護
 国家の安全保障を確保する上で、秘密保護はもっとも重要な課題である。可及的速やかに、情報の提供を受けたものを含め、これを漏洩したものに対しては厳しい処罰を定めた法律を作ることが必要である。その際、「国家安全保障会議」(仮称)の構成員及び事務局並びにその情報の提供を受けた者については、特に重い守秘義務を課すことも含め、秘密保護を十全なものとする仕組みが必要である。
 6.既存の関係省庁との関係
 「国家安全保障会議」(仮称)は内閣に置かれ、現行の安全保障会議と同様に内閣総理大臣の諮問機関であり、外交を所掌する外務省、防衛を所掌する防衛省等の関係省庁の権限を変更するものではない。

 4 今後の進め方

 上記とりまとめられた意見を具体化し実現するため、政府として、必要な法案を今通常国会へ提出し、成立させることを期待する。