11月の朝雲ニュース

11/29日付

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空自ペトリオット部隊派米実射訓練を見る
全弾要撃成功!


防空ミサイルが出迎える米ニューメキシコ州マクレガー射場の入口付近。面積は山梨県とほぼ同じだ


「ゴーッ」という大音響とともにTAC1サイトから蒼空に打ち上げられた6高射隊のペトリオットミサイル(11月14日、写真はいずれも米ニューメキシコ州マクレガー射場で)

今年8月から約3カ月間、米国ニューメキシコ州のホワイトサンズ、マクレガー両射場で行われていた空自ペトリオット部隊による19年度高射部隊年次射撃がこのほど終了した。期間中、高射教導隊(浜松)の指導の下、全国12個高射隊と8個基地防空隊が順番に渡米してPAC2誘導性能強化弾(GEM)などペトリオットミサイル全22発を実射、全弾要撃成功の成果を挙げた。今年度最後の派遣部隊となった2高群(春日・森田公治群司令)の指揮所運用隊(同・木村俊博3佐以下約15人)、6高射隊(芦屋・椿井裕昭3佐以下約25人)、7高射隊(築城・田中裕2佐以下約25人)の訓練を密着取材した。(日置文恵記者)

器材の設置、調整、陣地変換・・・
緊張感漲る事前準備


 実射前日の11月13日。太陽がじりじりと照りつけ、気温25度を越える赤い岩肌とサボテン砂漠の広がるマクレガー射場の一角に、全長約15メートルの発射装置(LS)が、大きなエンジン音とともにけん引車両で滑り込んできた。
 低灌木に囲まれ、遠くからは見通しのきかない“TAC1(タック・ワン)”と呼ばれるサイトでは、2高群6高射隊による布置作業が始まっていた。器材はすべて高射教導隊が所有する一式で、現地では高教隊の隊員が見守る中、各高射隊がこれらの器材を借り受け、国内で5月から行ってきた一連の訓練成果を総仕上げ的に発揮し、高教隊からの助言を受ける。各高射隊は実射前日までに高教隊から器材を受領、点検してスタンバイするところまでが行われる。
 牽引車両から切り離された発射装置は、4カ所のアウトリガー(脚)でしっかりと地面に固定される。隊員が側面のVHFアンテナを素早く伸ばして立ち上げると、ランチャーはぐんぐん仰角を上げ、発射スタンバイの状態でゆっくりと回転を始めた。この時点では実弾でなく、空のキャニスター2個と訓練弾2個が搭載されている。
 「アウトリガー、よーし!」  隊員は常に大きな声を出し合って、自分が今何をしているのか、何を求めているのか、器材の状況はどうなのかを逐一周りに伝えていく。それを受けて周りも復唱し、必要なら臨機応変に助けに入る。十分な意思疎通が、安全確保の基本なのだ。
 6高射隊長の椿井裕昭3佐は「部隊の練度向上を目的とする訓練のため、各高射隊とも若い新人隊員の参加率が5〜7割以上と高いのが特徴。わが隊は“克己”の精神で、ベテラン上級空曹の分隊長や各級指揮官(チーフ)が新人を理屈でなく自然に体が動くまでに養成してきた。幹部の射撃小隊長以下、その成果を発揮するとともに、各級指揮官の指揮要領を見てほしい」と語る。
 一方、教導に当たる高教隊FU教導係長の藤幡健介2尉は「まずは基本に忠実、安全確実であることに重点を置いて成果を見ている」、同じく同隊のLS2号機チーフの佐藤薫2曹は、「元気とチームワークの上に迅速性が求められる。国内では若い人の観点で言い方を変え、接し方を変えて分かりやすく基本を教え、訓練を積み重ねてきた。実射という国内ではできない体験を通じて存分に成果を発揮し、ひと回り成長して帰国してほしい」と、若い隊員の一挙手一投足に視線を投げかけていた。
  ×  ×  ×
 同じころ、数キロ離れた“IFC19”と呼ばれるサイトでは、高射部隊を統制する2高群指揮所運用隊の隊員が、アンテナマストグループの撤去作業に取り掛かっていた。ミサイル部隊は絶えず、発射地点を変えなければならない。「かかれ!」の合図で持ち場についた隊員は油圧と手動でアンテナマスト車の2本のアンテナを急ぎ折りたたむと同時に、別の隊員が力を合わせて電気、通信などの各種ケーブルを持ち抱え、素早く車両内に収納した。
 アンテナマスト車両は、対となって行動する情報調整装置(ICC)とともに発動発電機をけん引してその場をいったん立ち去ると、すぐに陣地を変えて進入し、展開を開始。隊員は直ちに発動発電機を切り離して電源を入れケーブルを敷設、接続し、アンテナを立ち上げて送受信の微調整を行い、あっという間に布置が完了した。撤去からわずか数十分だった。
 その様子を見守っていた指揮所運用隊長の木村俊博3佐は「各高射隊を統制し、発射指令を出す重要な役割を担うわが隊は、ベテランを中心に少数精鋭でアイコンタクトを取り合う。結束力は高い」と話す。同隊では今回の訓練で女性自衛官の富島沙耶香士長が高射隊にミサイル発射の指示を伝えるエンゲージオーダーのボタンを押すなど、新人の活躍が目立った。
 再びTAC1サイトに戻ると、先ほど6高射隊の隊員によって設置された発射装置のミサイル再搭載(ミサイルリロード)訓練が始まるところだった。ランチャー部分が仰角を下げて搭載状態に戻る間、積み替え用の実弾ミサイルの入ったキャニスターを搭載したトラックが横付けになり、後ろにはミサイルを持ち上げるための大型クレーン車が到着。
 隊員が手分けをして、ランチャー側の空のキャニスター2個と、実弾入りのキャニスター2個の全てのネジを点検。ランチャー側の空のキャニスター1個にロープが固定され、クレーンのフックに掛けられると、空キャニスターはゆっくりと吊り上げられていく。バランスを保つため、キャニスターは四隅から伸ばしたロープを隊員がしっかりと握り、ゆっくり確実に地面に下ろされた。
 2個目を下ろした後、今度は積み替え用の実弾入りキャニスターにロープとクレーンのフックが掛けられる。緊張感がみなぎる中、宙に浮いたキャニスターはクレーン操作員の無駄のない操作要領でランチャー側に移動、ピンポイントに下ろされる。手を上げて待ち構えていた隊員が「OK!」の合図。キャニスターはピタリと固定され、搭載は無事、完了した。
 間もなくクレーン車とトラックが離脱すると、実弾が搭載されたランチャーは再び大空に向けて仰角を上げ、発射待機に就いた。

紺碧の空を駆けのぼる3発

 11月14日午前10時。いよいよ実射当日だ。前日、6高射隊が訓練を行っていたTAC1サイトから約9キロ離れたTAC24サイトでは2高群7高射隊が実射準備に追われていた。もちろん、TAC1サイトでも同時刻、6高射隊が実射を前に慌しい朝を迎えていた。
 TAC24サイトの指揮所では、7高射隊長の田中裕2佐が「声を出せ!しっかりやれ!」と檄を飛ばす。
 まず、展開していた器材を撤収する陣地変換から状況を開始。隊員はクモの子を散らすようにそれぞれの持ち場へとダッシュする。レーダー車両が上部に突き出たレーダー部分の収納を始める。「冷気運転終了まであと5分!」と、電源車(EPP)の電気員が叫ぶ。レーダーの電源ケーブルは、器材保護のため冷気運転終了後に外さなくてはならない。「電源完全停止まであと1分…30秒、10秒…オフ!」。レーダー車両から抜かれた電源ケーブルを、7人の隊員が肩に担いで電源車に収納。近くのアンテナマスト車両、射撃管制装置、少し離れた場所の発射装置も撤収準備を完了すると、一斉に梯団を組んで走り去った。
 そして10分後−−。7高射隊の梯団は砂煙を巻き上げて同じ場所に戻ってきた。展開開始だ。ランチャー車両は仰角を付けた発射機の重心位置を考慮し、ピンポイントで所定の場所に進入、ミリ単位の位置調整が行われる。
 車体の微妙な傾きやズレが大きく影響するレーダーの設置には三角測量によって特に慎重に対処する。担当の隊員による入念な複数チェックの後、高教隊の隊員が最後の確認を行い、「OK」が出た。その間にも重さ8キロの無線機を背負った隊員が各所を飛び回って伝令を伝え、状況を報告する。各器材間がケーブルで接続され、指揮所運用隊からの指示で射撃の指令を出す射撃管制装置も異常なし。間もなく実射だ。
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 実射3分前。航空機を模擬した標的が数十キロ離れた射場の端から打ち上げられた。指運隊の情報調整装置(ICC)では井野口悟2尉が6、7両高射隊に「アサイン・トラック89!」と指示。両隊では標的をいち早くレーダーで捕捉、パターンを解析し、確実圏内に入ったのを見極めて6高射隊の前田良太3尉、7高射隊の根岸大輔2尉がそれぞれカウントダウンを始めた。「ラジャー。トラック89、アバウトエンゲージ・5、4、3、2、1、エンゲージ!」  。
 「ドーン、ゴオーッ」という轟音とともにTAC1から1発目、1分後に2発目、10分後にTAC24から1発が紺碧の空に打ち上げられた。3発のミサイルはぐんぐん高度を上げ、放物線を描いて飛しょう。「ペトリオットタワー」で視察中の森田公治2高群司令や支援部隊指揮官で高教隊副司令の福原洋一2佐をはじめ、両サイトの防空壕や器材の中、野外観覧席でかたずを飲んで隊員が見守る中、3発のミサイルはそれぞれ約1分後、見事に要撃に成功、バーストした。
 全弾要撃成功という成果に、TAC24では田中隊長が「実射を経験し、若い隊員も有事の際の心構えを養うことができたと思う」、森田2高群司令も「高射部隊は基本手順を踏まえた上でいかなる不測事態にも対処し得る能力が求められる。実射に至るまでの一連の流れを通じて常に状況を把握、それに対処していく実戦的な訓練ができた」と、改めて派米実射訓練の意義を語った。

舞台裏を一手に 支援部隊



クレーンで実弾再搭載(ミサイルリロード)の訓練を行う6高射隊員。手前のキャニスターが実弾入り。実射前日の緊張感が漂う(11月13日)

 年次射撃に訪れる部隊の隊員と、それを受け入れる高射教導隊を中心とした支援部隊の隊員たちは、テキサス州の最西端、メキシコと国境を接するエルパソ市のフォートブリス米陸軍駐屯地を拠点としている。
 フォートブリスは山梨県とほぼ同じ4530平方キロメートルのマクレガー射場(ニューメキシコ州側)をメーンに、米陸軍防空学校や防空砲兵部隊、ドイツ空軍の防空部隊も所在、映画館やマーケット、ジムもあり、官舎などの居住地域はひとつの町を形成するほどだ。陸自のホーク、中SAM部隊も空自と同じ隊舎で過ごしている。
 また、「UT&C」と呼ばれる米退役軍人による陸空自に対する実践的なサポート態勢も整っており、空自にはマイク・ウィルソンさん(59)が付きっ切りで普段のこまごまとした調整から実射日のペトリオットタワーにおける業務まで支援、日米の架け橋ともなっている。
 空自ペトリ部隊はフォートブリスから約50キロ北のニューメキシコ州側にあるマクレガー射場で訓練を行う。それに先立つ研究射撃は、マクレガー射場の北西に隣接し、長野県がすっぽりと入るほど広大なホワイトサンズ射場で行われている。
 支援部隊は前段と後段に分かれ、19年度の前段指揮官は高教隊司令の小野豊1佐、後段は同副司令の福原洋一2佐以下約80人。うち高教隊の約50人は3カ月間を通して現地に滞在、それ以外は前段と後段で全国から希望者を募って企画班、服務安全、業務隊が臨時編成された。
 業務隊長の志水賢治3佐の下で働く花田哲典1尉は宿舎の手配、部品の調達と管理を担当する藤本将克1尉は日本と16時間の時差や米軍とのやり取りに苦労したという。会計の安藤浩一2尉は一手に予算を預かり、口座を開くところから始めた。
 フォートブリス駐在の連絡官でASP期間中は企画班長を兼務した佐保秀和2空佐の下では、上羽一広2尉が接遇を担当、「VIPを車で各所に案内したのは貴重な経験」と言う。通訳の堀田泰史2尉をはじめ「視野が広がった」と話す隊員は少なくない。
 医官として隊員の健康管理に気を配ってきた小西透2尉は「隊員はみな国内で厳しい健康診断と体力審査をクリアしてきているので、幸い大病はなかった。眼科医として目の乾きには注意を呼びかけた」と最終日にホッとした様子で話していた。